進路落語3:目黒の大学
高校教師の進路指導は、まだまだ社会をご存知ありません。
だからこそ色々なところで情報を得て、少しでも生徒の役に立つようにと考えていらっしゃる。
それでも、大学進学率が学校の評価になるこの現代。ついつい、大学ばかり薦めたくなってしまうものなのでしょうか。
ある秋のこと、地方の高校で2年生を担任するこの男も、進路指導に役立つ情報を得るために東京に出張に来ていた。
この男、まだまだ進路指導を知らず、高校卒業後の進学と言えば大学くらいしか知らなかった。
日も暮れ一通り大学を回ったところで、一杯酒でも飲んで長野に帰ろうかと考えて、赤提灯の点いたこじんまりとした小料理屋に入って、カウンターに座った。
時間が早かったのか、お客さんは他に誰も居らず、店主が付きっ切りでお酒を注いだり、料理を出したりしてくれた。
料理も酒も、もちろん美味しいのだが、この店主の話がまた面白い。
歴史や文化、経済動向、政治、社会とどんな話題でも高校教師のこの男がうなるほどの話をしてくれる。
この男はすっかりこの店主に惚れこんでしまった。
話も酒も進み、酔いの回ってきたところで、この男たまらず店主に
「私は高校教師をしていて、生徒の進路指導をしております。店主の教養の深さ、料理のうまさに感激している。いったい何処の大学の出身なのですか。今後の進路指導に役立てたい」
すると店主、
「いえいえ、私は大した大学ではありませんよ。名前も知られていないような、目黒にある大学です。料理は大学生の時にアルバイトをしていた居酒屋で覚えただけで。今なら、調理師の免許が取れる専門学校に通えばよかったなあ、と思うんですが」
時は経ち、高校3年生になった生徒らが真剣に進路を考える頃になった。
そこである生徒が、この男に相談にやってきた。
「私、将来は小料理屋をやりたいと思っていて、大阪の学校か東京の学校かで迷っているんです」
「そうか、そうか。迷っている大学はどんなところなんだ?」
「いや先生、大学じゃなくて専門学校にしようと思ってて。
大阪の学校は歴史も長い関西一の調理学校で、卒業生の実績も十分なんです。東京の学校はまだ新しいんだけど設備が綺麗で、しかも東京にあるから、放課後は色々なお店を見ることも出来て良いかなーって思ってるんです」
「なに?小料理屋をやるのに専門学校に通おうとしているのか」
「え、だって、小料理屋をやるためには調理師の免許が必要でしょ?そのためには調理の専門学校に通わないと・・・」
「いや、それはいかん。小料理屋をやるなら進学先は、」
目黒の大学に限る